細胞を若返らせる『グラウンド・ゼロ』という現象が確認される

分子レベルで見た老化現象とは、時間の経過とともにDNAの修復機能が低下しDNAが損傷して、それらが蓄積することだ。しかし不思議なことに、あなたが生まれたとき、あなたは両親の細胞やDNAを継承しない。なぜ私たちの子孫がこれらの変化を継承しないのか。卵子や精子など生殖細胞の不死性を研究しているMITの発生生物学者である山下由紀子氏は「何らかの理由で、あなたは “ゼロ” に戻っています」と言う。

かつて専門家は「生殖細胞は年齢を問わないかもしれない」と考えていた。しかし、現在では研究によって卵子と精子が老化する兆候を確認しており、今ではその考えを改め、「生殖細胞は受胎後に老化をリセットし、損傷を元に戻す可能性がある」という若返りの仮説を立てている。

6月25日にリリースされた査読済みの科学ジャーナル『Science Advances』では、「グラウンド・ゼロ」という、マウスとヒトの両方の生殖細胞が胚の初期段階で生物学的に年齢を最も若い状態にリセットする現象が起こることを報告した。

ボストンのハーバード大学医学部とブリガム・アンド・ウィメンズ病院で老化を研究している生化学者および遺伝学者の Vadim Gladyshev らは、分子時計を使用して、発生の初期段階におけるマウス胚のおおよその年齢を予測。エピジェネティック(DNAの配列変化によらない遺伝子発現を制御・伝達するシステム)な変化を追跡することにより、受精直後に起こる細胞分裂の初期段階の間、マウス胚の年齢が一定のままであることを確認した。しかし、約1週間後の胚が子宮に付着した後に、胚の生物学的な年齢が低下した。これは、細胞が何らかの若返りイベントを受けていることを示しており、同様のプロセスがヒトにも起こっていることが期待できるという。

現段階では多角的な検証がされておらず、今後の研究課題は山積みだが、理解が深まれば、「関節炎やパーキンソン病などの加齢に関連する疾患の治療法を発見するのに役立つ可能性がある」と、スタンフォード大学医学部の発生生物学者であるヴィットリオ・セバスティアーノは述べている。

もしかしたら生きている間に「不老治療」なんてSF的な技術が開発される日が来るかもしれない。

Top image Credit: photoAC by KI-TSU / References: ScientificNews “Embryos appear to reverse their biological clock early in development”