リアリティを追求した知的なエロファンタジー
ラノベとエロゲをこよなく愛する私の友人いわく、この作品は「記憶から消したいくらい面白くなかった漫画」だと言う。
その友人の好きなラノベは「青ブタ」。好きなエロゲは「Dies irae」だ。ちなみに私はほとんどラノベを読まないし、エロゲもしない。
一方で、私が好きな漫画は「攻殻機動隊」「グランドレス」「引きこもりの冒険者」「モンスター」「ハンターハンター」「ゴールデンカムイ」「ライドンキング」「グランドレス」といった、話が複雑で展開がリアルなヤツだ。
なので頭を空っぽにして安心して読める俺強ハーレム系の異世界モノのが好きになれない。
多くの俺強ハーレム系は、「なるほど!」といった知的な展開も薄く、「え!?ここで!?」という大胆さも無く、ご都合主義的・予定調和な展開が多い。アレらは育ち盛りの中学生が想像する妄想や願望を漫画にしただけに過ぎず、本質的には欲望を満たすだけのエロ本に近いと思っている。
エロ本に奥深さなんて感じないし面白みも感じない。なので俺強系にも奥深さや面白みを感じない。
そして今回ご紹介する『科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日誌』も一種の異世界転生オレ強ハーレム系の一種で、もはやエロ本と言っても過言ではないほどHをしまくる。
しかし本作は「面白い」と思った。
それは「なるほど!」が詰め込まれている知的なマンガだからだと思う。
主人公はケンタウロスのような「人と動物or昆虫が合体したクリーチャー」の娘が大好きで、異世界に飛ばされてクリーチャーの娘だけでハーレム生活を目指す物語になっており、ここだけ聞けばクリ娘専門の低IQエロ漫画だが、この作品は他と一味違う。
本作が面白いところは2つある。1つは「クリーチャー」や「モンスター」を科学的に解明していくところ。
主人公は大学で生物学を学んでおり、異世界で遭遇するクリーチャーはもちろん、トレント(動く木の魔物)などのモンスターまでも「生物学的にこうなっている! だからこうなるんだ!」という解析と解説が「なるほど!」と関心するほどのクオリティになっているのだ。
もう1つは主人公がそこまで強くないこと。主人公は一言でいうと俺強系に入るが、チートスキルやチートな肉体で無双するワケではない。
主人公に特別なスキルは無く、強靭な肉体でもない。転生前となんら変わりない。ただ元々知識が豊富で頭が良いのだ。この上なく良く例えると「JIN -仁-」の南方先生のようなものだ。
彼は持っている自身の知識と頭脳をフル活用してゴリゴリ活躍していくのだが、物理学的に破綻したご都合バトルではなく、知的でスリリングかつリアリティのあるバトルを繰り広げる。
ただ、3巻の段階でストーリーは今のところ面白くない。
「クリ娘を囲ってハーレム王になる」という、最終ゴールはある。しかし心を掴まれるフックが無く、なんとなく物語が進んでいる状態なので、このままだと確実に飽きる。しかしポテンシャルはかなり大きいので、ここからストーリーが面白くなれば間違いなくトップレベルの漫画となりえるだろう。
この漫画はどこに向かうのか。今後の展開に期待したい。
以下は最新巻を読んだ編集部の感想である。ネタバレを含むので、イヤな方はここでページを閉じていただきたい。
4巻 感想
●2019年6月26日追記(ネタバレなし)
『科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日誌』の4巻を読んだので感想。
相変わらず設定がリアルで細かく、エロ系異世界ハーレムものとは思えない知的な内容であった。
4巻は主人公の同僚であるオリツエ君の話が中心となる。彼は典型的なモテない容姿を持ち、空気を読む能力に長け過ぎているが故に主人公とは別の道を歩むことになる。
これがナカナカ大胆な展開であり、今まで「なんとなく進んでいた物語」の方向性をバシッと決定付けた。
この展開は「これからどうなるんだろう?」と意識を作品に引っ掛けるフックだが、タイミング的にも内容的にもベストだったと思う。
面白くなってきたがクリ娘には萌えない。5巻にも期待。
5巻 感想
●2019年9月26日追記(ネタバレ少しあり)
『科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日誌』の5巻を読んだので感想。
結論から言うとめちゃくちゃ面白かったです。
「特別な能力なしで異世界で生き延びるためにどうすれば良いのか」という難題に対して一番まともに、そしてリアルに取り組んでいるところは、今までの異世界ものでは無かったので最高です。知識欲があって考えるのが好きな人は満足できると思います。
さらに5巻では社会哲学的な要素がふんだんに取り入れられ、より一層深みを増してきています。
4巻でゴブリンと共に暮らすことになった同僚のオリツエ君は、5巻になると人間社会を一歩引いた視点で物事を考え出します。
ある日、オリツエ君が所属するゴブリンたちに人間の女冒険者が2人捕まり、繁殖用家畜とされてしまいます。女冒険者の一人には婚約者がいて、もう一人の姉は過去にゴブリンに家畜にされ自殺しているという過去を持ちます。
彼女らはオリツエ君に「助けてくれ」と懇願します。普通なら助けるのでしょうが、オリツエ君は違います。助けません。むしろこの待遇に感謝すべきだろうとさえ言い放ちます。
その時に言い放ったオリツエ君の言葉は正にその通りで、「魔物は人間を襲う=悪」という思考は、人間が勝手に決めつけた価値観で、そもそも「悪」という概念自体が人間社会特有の歪んだ産物ではないのかと思わされます。
ストーリーに関しても人間社会と魔物社会を対比させながら、徐々に複雑性を増してきており、これからどうなるのか非常に興味深いところ。
6巻が楽しみです。