ヤモリが夜でも色を見分けられるメカニズムが解明される|論文掲載

研究者らは、夜行性のヤモリが暗がりでも色を見分けられる特殊な能力のメカニズムを明らかにした。

害虫から家を守ってくれることから、家の守り神として知られるヤモリは夜でも色を見分けられるが、なぜ見分けられるのかは謎に包まれていた。しかし今回、立命館大学客員教授 七田芳則 氏、小島慧一 岡山大学助教らの研究グループがそのメカニズムを解明。2021年10月2日、国際学術誌『Science Advances』に掲載された。

人間が暗闇で色を見分けられない理由

ヒトが暗闇で色を見分けることは出来ない理由は、明るい所で色を識別する光受容細胞「錐体」が3種(赤 緑 青の三色型色覚)あるのに対し、暗がりで働く光受容細胞「桿体」は1種類しかないためだ。光受容細胞「桿体」は、光を受け取ると「ロドプシン」と呼ばれる光センサータンパク質が働く。ちなみに明るいとロドプシンではなく、光受容細胞「錐体」に含まれる光センサータンパク質(錐体視物質)が働く。

ヤモリが暗闇で色を判別できる理由

暗がりで色が識別できないことは多くの脊椎動物に共通しているが、ヤモリは夜でも色を見分けられる。

ただ、ヤモリは明るい所で色を識別する光受容細胞「錐体」もなければ「ロドプシン」もない。夜行性ヤモリの眼には、暗がりで働く桿体のみがあり、その中には赤 緑 紫の光をよく吸収する3種類の錐体視物質が存在する。しかし本来明るい所で働く光センサータンパク質(錐体視物質)を暗がりで利用する必要がある。これまでは、どうやって利用しているのかは謎だった。

そこで研究チームは、夜行性ヤモリの明るい所で働く光センサータンパク質(錐体視物質)の性質を調べた。その結果、錐体視物質の性質が数個のアミノ酸の置換によって「暗がりでの視覚」に適した形に変化していたことを発見した。つまり、ヤモリは光センサータンパク質の性質を『昼用』から『夜用』に変えていたのだ

やるやん、ヤモリ。

私たちは今回、独自に開発した実験手法を用いることで、夜行性ヤモリの桿体で働く錐体視物質の性質を調べました。その際に着目したのが、 光がある時に反応する」性質ではなく、 光がない時に誤って反応してしまう」性質です。

光センサータンパク質は、 光がある時に反応する」ことが重要ですが、まれに 光がない時に誤って反応してしまう」ことがあります。このような光が来ていない時に起こる誤った反応(ノイズ)は、わずかな光を感度よく認識する 暗がりでの視覚」の妨げとなります。

そのため、ロドプシンはこのノイズ反応を極めて低く抑えることで 暗がりでの視覚」を実現していることが知られていました。一方で、明るい所でモノを見る際には、強い光が眼の中に入るため光への感度を下げる必要があります。

そのため、錐体視物質は高いノイズ反応を示し 明るい所での視覚」に一役買っていることも知られていました。今回の研究から、夜行性ヤモリの桿体で働く錐体視物質は、数個のアミノ酸の置換によってロドプシンと同様にノイズ反応を低く抑えていて、暗がりでの視覚」に適した性質を持つことが分かりました。つまり、夜行性ヤモリは、本来は 明るい所での視覚」を担っていた光センサータンパク質の性質を 暗がりでの視覚」に適応させたと言えます。

その結果として、夜行性ヤモリは暗がりで働く3種類の桿体を活用し、 暗がりでの色覚」という特殊な視覚機能を獲得したと考えられました。私たちの身近に棲むヤモリは、多くの脊椎動物が持たない特殊な色覚能力を駆使することで、闇夜に潜む害虫を正確に認識し、捕食していると考えられます。

論文から抜粋

用語解説

光受容細胞

脊椎動物の眼の網膜に存在し視覚を担う光受容細胞 視細胞とも呼ばれる)として、形態の異なる桿体と錐体が存在する。桿体は暗がりでの視覚を、錐体は明るい所での視覚を担う。

光センサータンパク質

動物の視覚機能を担う光センサータンパク質は視物質と呼ばれ、脊椎動物では通常、桿体に存在する桿体視物質(ロドプシン)と錐体に存在する錐体視物質に分けられる。視物質はタンパク質内部にビタミン A の誘導体であるレチナールを結合しており、光を受容することで反応 活性化)し視細胞の応答を引き起こす。

誤ったシグナル(ノイズ)

通常、視物質は光に反応し、視細胞の応答を引き起こす。しかし、光が来ていない時に視物質が誤って熱的に反応してもそれに由来する視細胞の応答は、光依存的な視細胞の応答と区別できないため偽シグナルとなり、視覚機能における感度の低下につながる。暗がりでの視覚では光への高い感度を必要とするため、光が来ていない時の誤った反応(ノイズ)の発生頻度を低く抑えることは重要になる。一方で、明るい所での視覚では光への感度を下げる必要があるため、光が来ていない時の誤った反応(ノイズ)の発生頻度を高めることが重要だと考えられている。


参考資料:https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/2021-09/20211002-yamashita-74c43f40adac57d89e21ed92e1e6f1f8.pdf