ミニマル・テクノとは
一般的にミニマル・テクノとは「最小限の音で、最小限の展開をするテクノ・ミュージック」のことを指します。
しかし実際は音数が多く展開の激しいミニマル・テクノも多く存在しています。では普通のテクノとどう違うのか?どう聴き分ければ良いのでしょうか。ミニマル・テクノの特徴は通常のテクノよりも「ある短いフレーズが延々と繰り返されていること」です。
一小節なり二小節なりの極端に短いフレーズが延々と繰り返されていて、それ以外の長いメロディーやフレーズが使用されていないテクノであれば、それはミニマル・テクノと呼べるでしょう。
サブ・ジャンルには、「ハード・ミニマル・テクノ」、「ディープ・ミニマル」、「ミニマル・ダブ」、「ミニマル・ハウス」などがあります。
なお、スティーブ・ライヒをはじめとするミニマリズムを取り入れた「ミニマル・ミュージック」は、1960年代にアメリカとヨーロッパで同時期に発生したクラシックを源流に持つ音楽です。「ミニマル・テクノ」とは、思想と手法は同じであれど畑違いの別物になります。
ミニマル・テクノの歴史
1992年
ミニマル・テクノの誕生
ミニマル・テクノの起源・源流はデトロイト・テクノにあります。
多くの文献では、一番最初にミニマル・テクノがリリースされたのは1992年。デトロイト・テクノの重鎮ジェフ・ミルズがシカゴで設立したレーベル「Axis」からとされています。
このレーベルの記念すべき1作目は、ジェフ・ミルズとロバート・フッドが結成したデュオ「H&M」のEP「Sleepchamber」。つまり世界初のミニマル・テクノです。
当時、デトロイト・テクノ界隈で圧倒的な人気を誇っていた集団Underground Resistance(アンダーグランド・レジスタンス :以下UR)のメンバーで創始者の1人。ハード・ミニマル・テクノの元祖。
ジェフ・ミルズと同じくURの創始者の1人。Hardwax、M-Plantなど、数々の人気レーベルを設立したディープ・ミニマル・テクノの元祖。
1993年
ミニマル・テクノの帝王降臨
EP「Sleepchamber」がリリースされてから1年後の1993年、後に歴史を語る上で欠かすことのできない人物が3人、ミニマル・テクノ作品をリリースします。
1人はデトロイト・テクノやアシッド・ハウスに強い影響を受けて育ったイギリス生まれカナダ育ちの白人Richie Hawtin(リッチー・ホウティン)です。
彼のレーベルである「Plus 8」からPlastikman名義で発表した「Spastik」は、まるでおもちゃの人形が叩くドラム・マーチをミニマル・テクノに昇華させたような狂喜のサウンドとなっていますが、これがたちまちDJのキラーツールとなり、一世を風靡しました。現在でも多数のDJが必殺アイテムとして愛用しています。
彼は作品だけでなく、類まれなセンスでDJとしてもカリスマ的な存在となり、その実力は人気音楽マガジン「RA」のDJランキングで1位を獲得するほど。
さらに5曲同時にMIXしたり、より立体的にテクノを楽しめるよう5.1チャンネル・スピーカーの1つ1つに音を分配したり、パソコンの音源をターンテーブルで操作できる機械の開発に携わったりと、DJ業界にも数々の革命を起こしました。
彼に影響を受けてミニマル・テクノの沼に足を踏み入れた人は数多く、彼がいなかったらミニマル・テクノ・シーンのみならず、DJシーンなどの発展も数年遅れていたことでしょう。
ミニマル・ダブのパイオニア
欠かせない残りの2人は、ドイツ人のMoritz von Oswald(モーリッツ・フォン・オズワルド)とMark Ernestus(マーク・アーネストス)です。
彼らが結成した「Basic Channel」では、ミニマル・テクノが持つ反復性に、ダブのディレイやリバーブを加え、そこに生暖かいレゲエのベースを乗せるという、とても中毒性の高いジャンル「ミニマル・ダブ」を生み出しました。
そのディープで有機的なテクノは薄暗いクラブと相性が抜群です。暗闇の中、1メートル先も見えないほど濃く焚かれたスモークの中でミニマル・ダブを聴こうものなら確実に音の世界に飲み込まれます。
後に彼らはよりダビーなRhythm&Soundをメインプロジェクトとして動かすことになりますが、これらの活動で輩出されたトラックの数々によってDJは、宇宙(テクノ)からジャマイカへの旅を可能にしたのです。
1995〜2000年まで
ミニマル・テクノのムーブメント
幾人かの天才達の活動で、ミニマル・テクノの文化はあっという間に発展し、Thomas Brinkmann、Daniel Bell、Ricardo Villalobos、John Thomasらといった、数えきれないアーティストが活躍しました。
その人気は日本にも届き、東京と関西のクラブには毎週のようにテクノDJが来日するようになります。
DJ Rush、Monika Kruse、Technasia 、Valentino Kanzyani、Hertz、Ben Sims、Cristian Varelaといった人気テクノ・アーティストらは特にハード・ミニマルを取り入れたDJで観客を魅了しました。
2000年〜
進化するミニマル・テクノ
2000年の初頭では、「Parlon」、「Force Tracks」などのレーベルから、ハウスを源流としたジャンルであるクリック・ハウスやマイクロ・ハウス文化が形成されます。
その文化に同期するかのようにリッチー・ホウティンの「Minus」や、「Telegraph」といった名門レーベルからクリック・ハウスとミニマル・テクノを融合させたようなトラックが続々とリリースされました。
Ricardo Villalobos、Audion、Marc Houle、Andy Vaz、Matt Star、Jeff Milliganなどなど、この時代を彩ったアーティストを数えるとキリがありません。
これらのジャンルは一部でディープ・クリックと呼ばれたりもしていましたが、結局はディープ・ミニマルやディープ・テックといったジャンルに分類される流れとなり、ジャンルの確率には至りませんでした。
2000年代も後半になるとミニマル・テクノシーンは落ち着きますが、生き残ったコアな信者達によって、ミニマル・テクノは芸術の域にまで研ぎ澄まされることになります。
そして2012年頃あたりからスペインのIbizaでミニマル・テクノブームが到来。2014年にはルーマニアのミニマル・テクノが大流行し、レコード・ショップではルーマニアンミニマルの特集が組まれるほどになりました。
近年ではルーマニア近辺のモルドバやウクライナ、ハンガリーも盛り上がりを見せ、今や世界各国のアンダーグラウンドの最下層にミニマル・テクノ文化が存在している状況となっています。
現在
次世代のおすすめミニマル・テクノ
現在では、全盛期を彩ったミニマル・テクノ・アーティストの多くは活動を停止していますが、彼らのDNAを受け継いだ次世代のアーティスト達が多数出てきています。Coshitanでまとめているミニマル・テクノのプレイリストをご紹介します。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
ミニマル・テクノは1992年にデトロイト・テクノの重鎮2人が産み落とし、2度のブームを経て世界のアンダーグラウンド最下層に根付いている。という事をお伝えさせて頂きました。
まだミニマル・テクノに魅了されていない人は是非トラックを丸々1曲聴くのではなく、DJのMIXを良いヘッドホンで聴いてみてください。できればクラブで聴いてください。
ミニマル・テクノというのは繋げてなんぼ、MIXしてなんぼです。
DJが個々のトラックと繋げる(MIXする)ことによって無機質なミニマル・テクノは有機的になり、ストーリーが構築され、一期一会の世界を完成させます。
それの最たるMIXがこちら、リッチーホウティンの「DE9 Transitions」です。
既にご存知の方も多いかと思いますが、トラックを同時に5曲繋げたり、5.1チャンネル・スピーカーで立体感を出すために前後左右で音を独自に配置しています。2005年の作品とは思えません。
それでは素敵なミニマル・テクノをお楽しみください。
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